「本人が死んでいるので顔認証できません」 病院から連れ出された老父、銀行前で力尽きる SNS炎上の果てに問われる“誰のための制度か”

「本人がいないと引き出せません」。その一言が、人の命を閉ざす引き金となった――。

中国湖南省株洲市で、高齢の男性が治療費を引き出すため家族とともに銀行を訪れたが、本人確認の要件を満たせなかったために現金が引き出せず、その場で病状が悪化し死亡するという衝撃的な出来事が起きた。SNS上では、この件を巡って制度の過剰な厳格運用や、顔認証技術の“無慈悲さ”を批判する声が爆発的に広がっている。

■「顔認証ができなかったので引き出せません」

投稿主は、「今日午後、湖南株洲で起きた出来事」として、X(旧Twitter)に現場動画とともに詳細を記した。投稿によれば、病を抱える高齢男性が緊急に医療費を必要とし、家族が本人に代わって銀行に足を運んだが、銀行側は「本人確認が必要」「顔認証が通らなければ処理できない」との一点張りだったという。

家族はやむを得ず、治療中だった男性を病院から銀行まで連れ出し、店舗前で手続きを試みたが、すでに意識は朦朧としており、顔認証は失敗。最終的にその場で男性は力尽き、息を引き取った。

現場の動画には、銀行前の歩道に倒れ込む男性の姿と、駆け寄る数人の家族と見られる人物の慌てる様子が映し出されており、「制度に殺された」「人命よりルールを優先する国」といった怒りのコメントが殺到した。

■SNSに広がる怒りと皮肉:「人間の命よりシステムが大事なのか」

この投稿は15日朝にアップされて以降、瞬く間に18万回以上閲覧され、リプライ欄は炎上状態となった。

「今どきスマホで送金できる時代なのに、なぜ本人を連れてこさせる必要があるのか?」
「死んだ本人が顔認証できなかったから引き出し不能だと?冗談にもならない」
「銀行は介護施設か? 高齢者を何だと思っている」
「生活保護ではない、本人の貯金を引き出すだけなのにここまで苦労する国があるか」

中国国内では、近年、顔認証や指紋認証などバイオメトリクス技術が急速に導入され、銀行口座や公共サービスにおける“本人性”の担保として活用されてきた。しかしその一方で、高齢者や重病人、認知症患者など、技術に対応できない層への配慮が後手に回っているとの批判も以前からくすぶっていた。

特に地方都市では、デジタル化が都市部ほど進んでいないこともあり、「人の命をデジタルIDの奴隷にしている」といった皮肉も飛び交った。

■“制度の正しさ”と“人間の事情”のすれ違い

「これは氷山の一角だ。多くの家庭が同じように『本人が来ないとダメ』という壁にぶつかっている」と語るのは、北京市内の高齢者福祉団体の役員に等しい関係者。「代理人制度があまりにも非現実的で、委任状や公証書の取得には時間と費用がかかりすぎる。いざという時には全く機能しない」と憤る。

また、「銀行職員もマニュアルに従っているだけ」との見方もある一方で、「緊急性や人命に関わる場合に柔軟な判断が下せない制度こそが問題」との批判が相次いでいる。

■過去にも繰り返されてきた“引き出せない悲劇”

中国では過去にも、以下のような事例が問題となってきた。

  • 親が急逝し、残された未成年が学費を引き出せず進学を断念
  • 重病の妻の治療費を夫が引き出せず、治療が間に合わなかった
  • 認知症の老人がパスワードを忘れ、資金凍結状態に

いずれも、「本人確認を巡る厳格すぎる対応」が引き金となったものであり、今回の株洲のケースも、その延長線上にある。

■「人間の事情」を取り戻せるか

顔認証技術やデジタルセキュリティの重要性は否定しがたいが、それが“命より優先される”社会であってはならない。制度とは、あくまで人間を守るためにあるべきものであり、今回のように命が失われるような運用のあり方は根本的に見直されるべきだろう。

SNSでは、「これが未来なら、私は過去に戻りたい」といったコメントや、「本人確認より、本人の命が優先だという当たり前のことを忘れていないか」といった痛烈な指摘も相次いでいる。

中国当局や金融監督機関が、この悲劇をどう受け止め、どのように改善へと動くのか。市民の命を制度が奪うという事態が繰り返されぬためには、「正しさの前に、人間の事情」を取り戻すことが急務だ。

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