千葉県いすみ市の第三セクター・いすみ鉄道で、2024年10月4日午前8時6分ごろ、国吉―上総中川間の半径300メートル右曲線で大原発上総中野行き下り5D列車(2両・ワンマン)が脱線した。先頭車後台車の全2軸と後部車の全4軸が左側に脱線、乗客104人と運転士1人にけがはなかった。運輸安全委員会は2025年10月2日、公表した報告書(RA2025-5-1)で、主因を「軌間の大幅拡大」による軌間内脱線と断定した。走行速度は約41km/hで、曲線の制限(45km/h以下)内。速度超過はなかった。
報告書が描く現場の実相は重い。曲線区間では静的軌間変位が大きく、通り変位は軌道整備基準値を超え、さらに腐食やひび割れのある木まくらぎが連続。列車の横圧でレールが小返りを起こし、動的に軌間が拡大した結果、先頭車後台車第1軸の右車輪がレール内側へ落下。後続軸も連鎖的に追随し、外軌(左レール)は倒伏した。脱線の出発点は大原起点9k427m付近で、運転状況記録は同地点通過を「08時06分12秒、41km/h」と刻む。現場の再測定では軌間変位39mm、通り変位41.3mmという“危険域”が確認された。
見過ごせないのは、予防の網が目詰まりしていたことだ。同社の定期検査(2024年2月)は当該曲線で計17か所の基準超過を検出し、うち2か所は「著しい数値」超過。にもかかわらず、手検測による再検査で数値が小さく出る誤差が生じた可能性があり、整備対象の絞り込みが甘くなった。全線では基準超過が1,656か所に達したが、6か月以内の補修完了は23か所にとどまる。施工能力・予算の制約を理由に補修が遅れ、当該曲線でも通り変位の補修指示は出ていたものの未施工のままだった。まくらぎ交換も、連続不良(C以上9本、うち4本連続)を把握しながらPCまくらぎ化の前倒しには至っていない。
委員会は勧告で、(1)整備基準値と「著しい数値」の妥当性をスラック量や限度値に即して再検証し、管理・補修体制を立て直すこと、(2)2018年の同委員会意見「軌間拡大による脱線防止」を踏まえ、PCまくらぎ化など実効策をできるだけ早期に計画的実施すること——を求めた。国・自治体の技術支援の積極活用も促している。2013年にも同社線で軌間拡大による脱線(RA2015-8)が起きており、対策の持続と運用が要諦であることは既に示されていたはずだ。
小断面の地方鉄道に、幹線鉄道と同じ投資余力を求めるのは酷だ。しかし、安全の“最低線”は譲れない。測定→再検査→補修という一連のサイクルに、位置特定の精度管理や動的軌道変位の把握(軌道検測車の活用など)を組み込む。まくらぎは連続不良を危険信号として優先交換し、曲線の通り変位は横圧増大要因として機動的に是正する。基準値はスラック量を含めて現実の走行条件に合わせて見直す。いずれも難問ではないが、放置すれば次は「無傷では済まない」可能性がある。
第三セクターは地域の足であり、災害時のライフラインでもある。だからこそ、限られた人員・資金の中でも、危険の芽を確実に摘み取る管理設計がいる。いすみ鉄道は勧告を、紙の約束で終わらせてはならない。安全は“やったつもり”では届かない。検知・判断・施工までを時限で縛り、連続不良と動的拡大の芽を潰す運用へ。地域と国の後押しを受け、線路の強度を一段引き上げることが、信頼回復への最短路だ。
曇りがち
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