
岩手県北上市の瀬美温泉で10月21日午前、清掃作業中だった笹崎勝巳(ささざき・かつみ)さん(60)がツキノワグマに襲われ、出血性ショックで死亡した。警察と市によると、笹崎さんは施設の屋外作業中に背後から襲われたとみられ、従業員が倒れているのを発見。救急搬送されたが、搬送先の病院で死亡が確認された。
笹崎さんは元プロレスラーで、現役時代には地方興行を中心に活動していた。引退後は東京都内で勤務していたが、今年3月に家族とともに北上市へ移住し、瀬美温泉で勤務を始めたばかりだったという。地元関係者は「まじめで明るい人柄だった。まさかこんなことになるとは」と悲しみに暮れている。
■北上市で相次ぐクマ被害
北上市では今年に入り、ツキノワグマによる被害が深刻化している。市によると、2025年に入ってからクマによる人的被害はこれで3件目であり、うち3人が死亡している。今回の笹崎さんのケースを含め、いずれも市街地近くや温泉地周辺で発生しており、従来の「山間部限定」だった被害範囲が拡大していることが確認されている。
岩手県内ではこの秋、ツキノワグマの出没件数が急増しており、北上市や花巻市など内陸部を中心に目撃情報が相次いでいる。県の統計によると、9月以降のクマ出没は昨年の同時期の約2倍に上っており、ドングリなどの餌が山林で不足している影響が指摘されている。
■市が温泉施設の営業一部停止へ
北上市は今回の死亡事故を受け、瀬美温泉の露天風呂エリアの営業を一時中止し、周辺にクマ侵入防止用のセンサーと警報装置を設置する方針を発表した。また、温泉利用者や地域住民に対し、夜間や早朝の屋外作業を控えるよう呼びかけている。
瀬美温泉の運営会社は「従業員の安全確保を最優先に対応している。ご遺族と関係者の皆様に深くお悔やみ申し上げる」とコメントした。
警察と市職員は、現場付近の山林にクマが残っていないかを確認するため、猟友会と協力して捜索を実施。周辺では目撃情報が相次いでおり、地元住民の不安が高まっている。
■ツキノワグマ出没、全国的にも増加傾向
環境省によると、2025年の全国のクマ出没件数は前年を大きく上回るペースで推移している。特に東北地方では、岩手・秋田・青森の3県で合わせて1000件以上の報告があり、人的被害は過去10年で最多。専門家は「気候変動や餌不足、個体数増加が重なり、クマが人里に下りざるを得なくなっている」と分析している。
岩手県は、地元自治体と協力して警戒パトロールを強化し、ドライブレコーダー映像などから出没地域のデータ収集も進めている。また、山菜採りや農作業時の「熊鈴着用」や「複数人での行動」を改めて呼びかけている。
■「人と野生の距離」問われる現実
今回の死亡事故は、観光地と自然環境が隣り合わせにある東北地方の課題を浮き彫りにした。北上市観光課の担当者は「観光と安全の両立が難しくなっている。地元の観光資源を守るためにも、早急な対策が必要」と語った。
地元猟友会の代表も「今年は山でドングリが少なく、クマが食料を求めて人里に出てきている。例年以上に警戒を強める必要がある」と注意を呼びかけた。
笹崎さんの訃報は、プロレス関係者やファンにも衝撃を与えている。SNS上では「現役時代の勇姿を忘れない」「熊被害を減らす対策を早く進めてほしい」といった追悼と安全対策を求める声が広がっている。
にわか雨

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