山形県南陽市でクマによる襲撃、市職員が軽傷 増える出没、地域社会に広がる不安と対策の模索

2025年11月1日早朝、山形県南陽市でクマの目撃情報を受けて巡回していた市職員が、警戒パトロール中にクマに襲われ、右手に軽いけがを負った。被害に遭ったのは50代の男性職員で、市が行っていた「クマ出没警戒パトロール」の最中だった。命に別状はないが、現場では緊張が走り、市は同日中に市民に対して注意喚起の緊急アナウンスを行った。

市によると、現場は南陽市内の住宅地と山林の境界に位置する地域で、通学路にも近い場所だったという。男性職員は午前6時半ごろ、通報を受けて単独で巡回していた際、藪の中から突然現れたクマと遭遇。逃げようとした際に右腕をひっかかれた。市の担当者は「朝の薄暗い時間帯で視界が悪く、クマの存在に気づくのが遅れた可能性がある」と述べている。

南陽市では9月以降、クマの出没件数が急増しており、市立学校でのガラス破損、住宅周辺での食害被害、果樹園での被害報告も相次いでいる。山形県全体でも秋の実りの時期にクマが人里へ出るケースが目立ち、2025年度の出没報告件数は前年同期の約1.8倍に達している。県によると、今年に入って県内で確認されたクマの目撃・被害事例は600件を超え、過去最多の水準だ。

南陽市は今回の襲撃を受け、当初11月15日までとしていた「クマ出没注意期間」を同月30日まで延長することを決定。市民に対して屋外活動の自粛を呼びかけるとともに、登下校時の集団行動や熊鈴の携帯を推奨している。

また、市は県や警察と連携し、専門のハンターによる巡回強化を開始。環境省や山形県は、ハンターの人手不足を補うために「緊急対応ハンター雇用交付金(仮称)」の創設を検討しているほか、警察によるライフル銃の使用基準緩和についても協議が進められているという。

南陽市環境課の担当者は、「ここ数年、クマの生息域が確実に広がっており、これまで安全と思われていた地域にも出没するようになっている」と話す。背景には、温暖化による山の実りの不作や、山林管理の遅れが指摘されている。特に2025年はナラやブナの実の収穫量が例年の半分以下にとどまっており、餌を求めて人里へ下りるクマが増えていると見られている。

地元住民の間では、通勤や通学への不安が高まっている。市内の小学校では登校時間を遅らせる臨時対応が取られ、一部の保護者は「子どもを送り出すのが怖い。行政が迅速に対応してくれてありがたい」と語った。

一方で、「クマも餌がなくて必死」「駆除だけでは根本的な解決にならない」といった意見もあり、共存の在り方を巡る議論も出ている。

県の野生動物研究センターによると、近年のクマ出没は単なる一時的現象ではなく、人口減少に伴う山里の空洞化や、放置された果樹園の増加など、複合的な要因が重なっているという。専門家は「対症療法的な駆除ではなく、地域の環境管理と人と野生動物の距離の再設計が必要」と指摘する。

南陽市では今後、ドローンを用いた出没監視の導入や、市民向けの防災アプリへのクマ出没通知機能の追加も検討している。現場に立つ市職員たちは「命を守るための活動」として日々警戒を続けているが、過酷な自然との向き合いは今後も続く見通しだ。

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