
福岡県で進められていた道路整備事業をめぐり、土地買収に関する不正取引が内部告発によって明らかになった問題で、県が告発者の特定を試みる形で職員調査を実施していたことが分かった。複数の報道によれば、県は9月から内部資料の漏えいを理由に関係職員への聞き取りを始めており、通報者を特定する意図があるのではないかとの懸念が広がっている。
この問題は、県が公共事業用地の買収において、市場価格を大きく上回る高額取引を行ったことが内部資料によって指摘されたもの。8月には福岡県が一部の不適切な取引を認め、再交渉を進める方針を表明していた。しかし、その直後に「情報漏えいの経路を調べる」として職員への聞き取りが始まり、通報者の保護を求める声が県庁内外で高まっている。
■ 公益通報者保護法に反するおそれ
専門家の間では、今回の県の対応が「公益通報者保護法」の趣旨に反しているとの批判が相次いでいる。早稲田大学の山口利昭教授(企業統治論)は、「行政が自ら不正を認めた後に通報者特定を行うのは、報復行為に当たる可能性がある。通報の萎縮効果を招き、透明性を損なう」と指摘している。
同法では、内部告発を行った職員に対する不利益な取り扱いを禁止しており、通報者の特定行為そのものが違法とみなされる場合もある。特に地方自治体においては、情報公開や説明責任の観点からも慎重な対応が求められる。
■ 行政の「報復的調査」への懸念
関係者によると、福岡県の調査は「漏えい経路の確認」として行われているが、対象者が限定されており、内部通報に関与したと見られる職員が集中的に聞き取りを受けているという。こうした動きに対し、職員組合の一部からは「通報制度が形骸化しかねない」との懸念が出ている。
一方で、県の担当部局は「不正の再発防止と情報管理の徹底が目的であり、通報者を特定する意図はない」と説明しているが、内部関係者からは「実際には通報者が誰かを突き止めようとする動きがある」との証言もある。
■ 類似事例との比較
こうした行政による通報者特定の動きは、過去にも兵庫県や大阪府などで問題化している。2022年には兵庫県内の教育委員会で内部告発者が特定され、懲戒処分を受けたことが発覚。後に外部調査委員会が「保護法違反の疑いがある」と指摘し、自治体の信頼を損なった例がある。今回の福岡県のケースも、同様の議論を再燃させるきっかけとなっている。
■ 透明性と説明責任の確保が課題
福岡県は今後、問題となった土地取引の再検証とともに、内部通報制度の在り方を見直す方針を示している。専門家は「行政組織が不正を正す仕組みを持つことは重要だが、通報者が守られなければ制度は機能しない」と指摘する。
また、住民からも「不正を明らかにした人が守られず、処分されるようなことがあっては本末転倒だ」といった声が上がっている。今回の問題は、行政の透明性を確保し、通報者保護を徹底する仕組みを再構築する必要性を浮き彫りにしたといえる。
今後、県は第三者機関を交えた調査や、外部監視体制の導入を検討する見通し。問題の焦点は、不正の解明そのものから「告発者保護」へと移りつつある。公益通報制度が形骸化しないためにも、福岡県の対応が全国の自治体行政の試金石となる可能性がある。
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