
中国の宇宙活動が予期せぬトラブルに直面している。中国国家航天局(CNSA)は5日、宇宙ステーション「天宮(Tiangong)」にドッキング中の有人宇宙船「神舟20号(Shenzhou-20)」が、微小なスペースデブリ(宇宙ごみ)とみられる物体に衝突した可能性があると発表した。安全確認とリスク評価のため、当初予定していた地球帰還を延期し、3人の宇宙飛行士は引き続き宇宙ステーション内での滞在を続けている。
搭乗しているのは、王浩(ワン・ハオ)、王亜平(ワン・ヤーピン)、葉光富(イエ・グアンフー)の3人。いずれも中国の宇宙開発計画において経験豊富な飛行士で、今回の任務では生命維持装置や通信系統の運用点検、船外活動訓練などを担当していた。航天局によれば、宇宙船および天宮の機能は正常を維持しており、搭乗員の生命に直ちに危険はないとされる。
神舟20号は2025年4月に打ち上げられ、約半年間にわたり天宮ステーションでの滞在任務を行ってきた。地球への帰還準備が進むなか、微細なデブリが船体の外部パネルに接触した形跡が見つかり、航天局は慎重な姿勢を取った。地上からの通信ログや機器の圧力センサー、外部カメラ映像の解析から、「極めて微小な衝撃」が確認されたという。
現在、地上の技術チームが衝撃の原因と影響範囲を分析中で、再突入(帰還)の日程は未定。帰還モジュールの熱防護シールドや姿勢制御装置などに影響がないか、詳細なチェックが進められている。航天局は「安全性を最優先とし、任務延長を含めた全ての選択肢を検討する」としており、3人の飛行士は天宮内の予備資源を活用しながら生活を続けている。
今回の事案は、地球周回軌道上に漂う数百万個にのぼるスペースデブリ問題の深刻さを改めて浮き彫りにした。人工衛星の残骸やロケットの破片、ペンキ片ほどの微粒子までが秒速7〜8キロで飛行しており、たとえ1センチに満たない破片でも、衝突すれば金属を貫通する破壊力を持つ。国際宇宙ステーション(ISS)でも過去に同様の衝突事例が報告されており、近年では各国が宇宙ごみ監視網の強化に乗り出している。
CNSAは声明で、「今回の微小衝突は予測困難な環境要因によるものであり、宇宙船の設計上の強度は十分である」と説明。NASAやESA(欧州宇宙機関)などにもデータを共有し、国際的な情報連携を進めているとみられる。一方で、中国国内のSNS「微博」では「宇宙ごみの国際管理を強化すべき」「ステーション防御技術を向上させる契機だ」といった意見が多く投稿されている。
神舟計画は、米国が主導するISSとは独立して進められてきた中国独自の有人宇宙計画であり、天宮はその象徴的成果とされる。2022年の完成以降、科学実験や物資補給ミッションが順調に進んでいたが、今回のような微細衝突はリスク管理の難しさを物語る。国際宇宙法上、スペースデブリの発生源特定は容易ではなく、国家間での責任追及も現実的に困難だ。
宇宙ごみの増加は地球規模の課題である。アメリカのトラッキングデータによれば、現在1センチ以上のデブリは90万個近く存在し、今後10年で倍増する恐れがあるという。中国は独自のデブリ除去技術の研究を進めており、今後の有人飛行では「能動防御シールド」や「軌道回避マニューバ」などの導入も検討されている。
王亜平飛行士は、中国初の女性宇宙船船長として知られ、「この任務は困難の連続だが、乗組員全員が冷静に任務を遂行している」と通信経由でコメントした。地上との交信は安定しており、3人は引き続き天宮での科学実験と設備点検を行っている。
今回のトラブルが重大事故へ発展する可能性は低いと見られるが、宇宙開発が新たな段階に入る中、宇宙空間の“安全保障”という概念が現実味を帯びてきた。微小なデブリの一撃が、地上の政治・経済・科学を揺るがす――その現実を、神舟20号の小さな傷が静かに語っている。
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