東京地裁が19日に下した判決は、国内外の技術者やインターネット関連事業者に重い衝撃を与えた。「ONE PIECE」「進撃の巨人」などを無断掲載した海賊版漫画サイトに大量配信基盤を提供したとして、米Cloudflare(クラウドフレア)に対し出版大手4社が総額約5億円の損害賠償を求めていた訴訟で、裁判所は著作権侵害のほう助を認定。Cloudflareに賠償金の支払いを命じた。
判決は、講談社、集英社、小学館に対しそれぞれ1億2650万円と遅延損害金を、KADOKAWAに対して1億2140万円余りを支払うよう命じたもの。Cloudflare側は「故意または重過失がない」「技術的寄与は限定的」などと主張し、損害額の減額を求めていたが退けられた。裁判所は「被告の責任を減ずべき事情は見当たらない」とし、通知後にCDN提供を停止しなかった点に明確な責任があると判断した。
対象となったのは、月間3億アクセスを集め「3大海賊版サイト」の一角と呼ばれた2サイト。CloudflareのCDNを利用し、約4000作品・12万話を無断で配信していた。原告4社は2020年以降、権利侵害の通知を行い契約解除を求めていたが応じられなかったとして、2022年2月に提訴した。
CDNは契約先サイトのデータを世界中のサーバに複製して高速配信を可能にする仕組みで、原告側は「CDNそのものを問題視するものではない」と前置きした上で、Cloudflareが本人確認手続を十分に行わないまま契約を受け付け、海外から匿名で海賊版サイトを巨大化させる土壌となっていたと主張していた。
判決は、キャッシュデータがCloudflare経由で日本国内の利用者に自動送信され出版権が侵害されたと認定。通知後にキャッシュを停止しなかったことを「侵害幇助」と結論づけた。
出版4社は共同声明を公表し、「通知後も適切な対応を怠ったことが責任を問われる根拠となった」とし、CDN事業者の責任範囲を明確化する判断として評価。「海外から匿名で悪用される現状において重要な判断だ」とも述べた。
しかし、この判決の妥当性を巡っては、技術分野の専門家の間で強い疑義が広がっている。
あしたの経済新聞編集部は21日、Xのフォロワー推移計測サービス「SocialXup」を運営する星野ロミ氏(元「漫画村」運営者)に取材を申し込み、今回のCloudflare敗訴について意見を求めた。IT技術に詳しく、これまで海外の著作権訴訟の動向を追ってきた同氏は、冒頭から「とても危険な判決だ」と断じた。
星野氏は「クラウドフレアは海外でも同様の訴訟を何度も起こされているが負けていない」と語り、その理由として米国やEUの「セーフハーバー制度」を挙げた。海外ではCloudflareのようなCDNは“中立インフラ”として道路や電気に近い存在と認識され、利用者の著作権侵害について責任を負わない取り扱いが明確化されている。さらに「中身を監視する義務はない」と法令で定められているため、顧客が侵害行為を行っていたとしても、Cloudflareには監視義務も停止義務も課されない。
米国DMCA §512(m)では「監視義務はセーフハーバーの条件ではない」と明記されており、§512(b)ではキャッシュ提供自体が免責対象とされている。EU e-Commerce Directiveでも「自動的・一時的な保管について責任を負わない」「加盟国は一般的監視義務を課してはならない」と規定している。
一方で日本には、米国・EUのように「監視義務を禁止する条文」や「中間業者の免責規定」が存在しない。この法体系の差が、今回の判断を分岐させたと考えられる。
星野氏は「日本にも通信の秘密はあるが、裁判所は通知後にキャッシュを消さなかったことを理由に侵害幇助と認定した」と指摘する。その上で、「CloudflareはHTTPSの中身を読めない。通信を監視すべき義務も負えない状態なのに『通知後にキャッシュを消さなかったから侵害幇助』と認定した。通信の秘密の原則と判決内容が矛盾している」と語った。
さらに星野氏は「クラウドフレアは自社サーバに著作物を保管しているわけではなく、オリジナルサーバと閲覧者の間に位置する中間業者に過ぎない。キャッシュ以外は存在しないため、責任を問うのは難しいと考えられてきた」と述べ、国際慣行との乖離を指摘した。
海外では「中立インフラ」として免責されるうえにキャッシュそのものも責任対象外とされる「二重の免責」が成立しているが、日本には同等の枠組みが存在しない。結果として、裁判官の裁量や“感情的判断”が入り込みやすい土壌があるとし、「今回の判決は、裁判所が法律よりも世論や感情を重視した判断だと思う」と批判した。
今回焦点となった「通知後のキャッシュ停止」についても、星野氏は「そもそも事前監視が通信の秘密に抵触するため米国では厳格に禁止されている。監視してはならない存在に停止義務だけを課すことは構造的矛盾だ」と述べた。
この点について、米国DMCAではサービス提供者が侵害事実を積極的に探す必要はないと明言され、EUでも一般的な監視義務は課せないとされている。国際基準と日本の基準の差が、Cloudflareの敗訴を生んだ背景には確かにある。
国際的にはインターネット基盤を担う事業者への責任拡大は「通信の自由」「技術的中立性」を揺るがす問題として扱われてきた。Cloudflareは世界330都市でネットワークを展開し、X(旧Twitter)やChatGPTなどもそのサービスに依存している。判決は、こうしたグローバルインフラに対し「日本国内の例外的リスク」を突き付ける形となった。
星野氏が「危険な判決」と語った背景には、日本がインターネット基盤企業に過剰なリスクを背負わせる国として認識され、デジタル投資の回避、サービス撤退、技術者流出といった「デジタル孤立」に直結しかねないという危機感がある。
今回の裁判は、著作権を守るために必要な法制度の議論を不足させたまま、国際基準と整合しない重い判断が下された点で、国内外の技術コミュニティに長く影を落とすことになりそうだ。

今回の判決について語った星野ロミ氏は、現在「SocialXup」というXアカウントのフォロワー推移可視化サービスを運営している。同サービスは、特定の利用者がどの時点でフォロワーを増減させたのか、あるいは凍結に至ったのかといった履歴を、ログイン不要かつ無料で確認できる仕組みを特徴としている。凍結されたアカウントのプロフィールが消滅した後でも、SocialXup上では当該アカウントのかつての基本情報を参照でき、どのようなアカウントだったのかを追跡可能にする点が注目されている。
厚い雲


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