
広島県内の公立中学校で、長年定番とされてきた「白い体操服」から、濃い紺色やグレーへの変更を進める動きが相次いでいる。背景には、下着の透けや汗染みによる不安を軽減し、生徒がより安心して授業や運動に臨めるようにする目的がある。2025年度の新学期からすでに複数校で新色の体操服が導入され、生徒・保護者の間で賛否を呼んでいる。
広島市立城山北中学校や可部中学校では、今年度から紺色の体操服を正式採用した。従来の白色では、汗をかいた際に生地が透けやすく、特に女子生徒から「授業中に気になる」「恥ずかしくて集中できない」との声が寄せられていたという。新デザインは通気性の高いポリエステル素材を採用し、軽量かつ吸湿速乾性を重視。生徒会主導のアンケートでも「汗が目立たず安心」「色が落ち着いている」と好評を得ている。
一方で、変更には慎重な意見もある。教員の一部からは「白は清潔感があり、集団の統一感を象徴する色だった」「長く親しまれた学校文化の一部が失われる」との声が上がるほか、保護者からも「在校生と新入生の色が混在し見分けがつきにくい」「買い替えコストが負担」といった懸念が聞かれる。導入にあたり、各校では生徒・保護者・教員を交えた協議を重ね、移行期間を設けて段階的に変更を進めている。
体操服の色変更の動きは広島県に限らず、全国的な潮流にもなりつつある。東京都や兵庫県でも、下着の透けを防ぐ目的で紺や黒の体操服を導入する学校が増加。メーカー関係者によれば「SNSでの写真投稿を意識する生徒が増え、汗染みが写らない色を選ぶ傾向が強まっている」という。また、文部科学省も2024年度の通知で「生徒の羞恥心や安心感に配慮した服装の工夫」を求めており、各地で対応が進んでいる。
広島県教育委員会は本紙の取材に対し、「県として統一基準は設けていない。各学校が生徒や保護者の意見を踏まえ、最も適した形を選ぶことが望ましい」と説明。体操服の色や形状は地域差が大きく、山間部では寒冷地仕様の長袖タイプ、市街地では吸汗速乾性を重視する傾向が見られるという。
可部中学校の教員は「白から紺に変えたことで、生徒が汗を気にせず体育に集中できるようになった。心理的負担の軽減は大きい」と話す。一方、男子生徒の中には「濃い色は夏に暑い」「昔の白がよかった」という声もあり、全員が歓迎しているわけではない。それでも全体としては「安心して動ける」「授業に集中できる」との意見が優勢だ。
また、デザイン変更に合わせて、ジェンダーレス対応の体操服を導入する動きも広がっている。広島市の一部学校では男女共通デザインのハーフパンツを採用し、性別に関係なく着用できる仕様とした。教育現場からは「服装に縛られず、自分らしさを尊重する方向に社会が動いている」と歓迎の声が上がる。
とはいえ、色変更にはコストや在庫処分といった課題も残る。従来型の白体操服を扱っていた地元業者からは「急な変更で在庫が残り、対応が追いつかない」との声も聞かれる。県教育委員会は「変更は急がず、段階的に行うことが望ましい」として、学校や業者間の調整を支援する方針を示した。
かつて「白=清潔」「平等の象徴」とされてきた学校文化は、いま「快適さ」と「心理的安全」を軸に再構築されつつある。広島県の事例は、その象徴的な一歩といえる。生徒の声を基点に変化する教育現場の姿勢は、今後全国の学校改革にも波及していくとみられる。
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