5月1日夜、岡山県美作市の湯郷温泉で、家族旅行中だった広島県福山市の藤田博子さん(76)が姿を消した。行方不明から7日目を迎えるなか、深夜の温泉街周辺で浴衣姿の女性が歩く様子が防犯カメラに映っていたことが分かった。楽しいはずだった家族旅行の夜に、何が起きたのか。高齢の母や祖母と旅行する世代にとって、胸が痛む事案だ。
藤田さんは1日、夫、長女夫婦、孫の5人で湯郷温泉の宿泊施設を訪れていた。午後9時ごろ、夫が姿を確認したのを最後に行方が分からなくなった。身長は約158センチ、中肉で、肩付近までの茶色の髪。行方不明時はピンク色の花柄浴衣に、白っぽいサンダル姿だったとされる。警察によると、藤田さんは足腰はしっかりしており、自分の名前は言える一方、住所は答えられないという。
防犯カメラには、2日未明、藤田さんとみられる人物が宿泊先から離れた場所を歩く姿が映っていた。午前0時20分ごろ、宿泊施設から約1.4キロ離れた住宅付近で浴衣姿の人物が確認され、その数分後には、さらに先の自動車販売店付近でも同じような姿が記録されていた。深夜の温泉街から離れた道を、浴衣姿の高齢女性が一人で歩く。映像は、通常の散歩とは考えにくい違和感を残している。
午前3時ごろには、交差点付近で浴衣姿の女性を見たという証言もある。目撃者は、女性が周囲を確かめるように歩き、「ここがどこか分かっていないように見えた」と話している。別の住民からは、後になって「行方不明者だと知っていれば声をかけていた」と悔やむ声も出ている。あの時、誰かが異変だと気づけていれば。そんな思いが、地域に残っている。
美作警察署を中心に、警察、消防、地元消防団、住民らによる捜索が続いている。これまでに約500人態勢での捜索も行われ、道路、山林、空き家周辺など、確認範囲は広がっている。夜間や早朝の目撃情報も重視され、警察は引き続き情報提供を求めている。
女性記者としてこの事案を追うと、自分の母や祖母の姿を重ねずにはいられない。温泉に入り、浴衣を着て、家族と部屋に戻るはずだった夜。その後、見知らぬ土地の夜道を一人で歩いていたかもしれない。旅先では、本人も家族も「少しの時間」と思う場面がある。しかし、慣れない土地、夜道、体調や認知の変化が重なると、その短い時間が大きな危険につながる。
今回の事案は、観光地や宿泊施設を責める話ではない。高齢の家族と旅行する時、夜に一人で出ないよう声をかけること、部屋を離れる時に家族で確認すること、位置情報共有や連絡手段を準備しておくこと。その一つ一つが、命を守る備えになる。家族旅行だから大丈夫、温泉街だから安心。そう思いやすい場所にこそ、見落としやすい危険がある。
藤田博子さんの一日も早い無事な発見が待たれる。警察は、似た服装の女性を見た人や、少しでも心当たりがある人に情報提供を呼びかけている。連絡先は美作警察署、電話番号は0868-72-0110。家族のもとへ帰れる日が、一日でも早く来ることを願いたい。
厚い雲
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