
富山県黒部市で2016年に発生した実父による娘への準強姦事件で、富山地方裁判所は2025年10月21日午後、被告・大門広治被告(54)の判決を言い渡す。事件は長年にわたり家庭内で続いた性被害をめぐるもので、社会的にも大きな注目を集めている。
被害者である福山里帆さん(25)は、中学生の頃から実父の性加害に苦しみ、当時高校生だった2016年に被害が顕在化したとされる。長期間にわたる沈黙の後、約3年前に被告が加害を認める音声を自ら録音し、証拠として警察に提出。これが捜査の決定的なきっかけとなった。
富山地検はこの音声データや被害者の供述をもとに立件し、2024年の初公判で被告を準強姦罪で起訴。検察側は「家庭という閉ざされた環境の中で長期間にわたり性的支配を行った悪質な行為」だとして懲役8年を求刑した。一方で、被告は一貫して無罪を主張し、「録音は虚偽であり、娘の言葉に誤解がある」と訴えている。
裁判では、被害者による録音データの信憑性が主要な争点となった。弁護側は録音時の状況や編集の有無を問題視したが、検察側は「被告の声の特徴や会話内容が具体的であり、作為性は認められない」と反論。音声鑑定の結果も提出され、被告の発言である可能性が高いとされた。
さらに、被害者が精神的な苦痛を訴えた医療記録や、周囲の友人・教師らの証言も採用された。これらの証拠は、被害者が長期間にわたり恐怖と罪悪感の中で生活していたことを裏付けるものとして評価されている。
検察側は最終弁論で「被害者が実父の支配から逃れるために勇気を振り絞って告発した行動は極めて重い意味を持つ。性犯罪の再発防止のためにも厳正な刑罰が必要だ」と主張。これに対し、弁護側は「被告に一貫した否認があり、供述の一部には不自然な点が残る」として無罪を求めた。
裁判の過程で、被害者は証言台に立ち、「父を憎んでいるわけではない。ただ、同じ苦しみを味わう人をなくしたい」と涙ながらに語った。この言葉は傍聴席の市民や支援団体の心を動かし、法廷外でも大きな反響を呼んだ。
公判を見守ってきた支援団体「性暴力サバイバーの会・北陸」は、「被害者が長い沈黙を破って声を上げた勇気は、社会全体が性被害をどう受け止めるかを問いかけている」とコメント。SNS上でも「被害者の行動が社会を変える一歩になる」「性犯罪の厳罰化を進めるべき」といった声が相次いでいる。
一方で、刑法の性犯罪規定をめぐる議論も再燃している。2023年の刑法改正で「不同意性交罪」が新設され、同意の有無に基づく判断が重視されるようになったが、家庭内での支配関係や威圧的環境下での事件では、依然として立証の難しさが残る。専門家は「家庭内性暴力は証拠が残りにくく、社会的孤立が深い。司法制度と支援体制の両面での強化が急務だ」と指摘している。
今回の裁判は、性暴力被害者の声が司法の場でどのように扱われるかを示す象徴的なケースとみられる。富山地裁は21日午後、被告に対する最終的な判決を言い渡す予定であり、注目が集まっている。
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