
スイス・ジュネーブで開かれた「水銀に関する水俣条約」第6回締約国会議(COP6)は7日、歯科治療に使用されているアマルガム(銀歯などの詰め物に用いられる水銀合金)の製造、輸出入を2034年12月31日までに全面禁止することで合意した。今回の決定は、水銀汚染を世界的に減らすための国際的な枠組みの中でも、象徴的な節目とされる。
アマルガムは、銀、錫、銅などの金属粉末と水銀を混合して作られる歯科用充填材で、耐久性の高さや安価なコストから長年にわたり世界各地で使用されてきた。しかし、その主要成分である水銀は環境中に放出されると有害なメチル水銀に変化し、食物連鎖を通じて人体や生態系に悪影響を及ぼすことが知られている。
国際会議では、加盟国代表らが「水俣病の悲劇を二度と繰り返さない」という理念を共有し、水銀を使用しない歯科治療への転換を加速させる方針を確認した。会議の声明では「歯科用アマルガムの廃止は、水銀フリー社会実現への重要な一歩である」と明記された。
日本では、すでに2016年にアマルガムが健康保険の適用外となり、樹脂系やセラミック系の代替材料への移行が進んでいる。そのため今回の決定による影響は比較的限定的とみられるが、世界的には依然としてアマルガムが主要な歯科素材として使われている地域も多い。特にアジアやアフリカの開発途上国では、経済的理由から水銀代替技術の普及が進んでおらず、今後の支援が課題とされている。
水俣条約は2013年に採択され、2017年に発効した国際環境条約で、日本の熊本県で発生した水俣病の教訓を踏まえ、水銀の採掘、輸出入、利用、排出を規制する枠組みを定めている。今回の第6回会合には、100を超える締約国・地域の政府代表、NGO、科学者らが参加。議論は3日間にわたり、特に歯科分野での水銀削減をめぐって活発な意見交換が行われた。
日本政府代表団は会議で、「国内ではすでにアマルガムからの脱却が進んでおり、今後は途上国への技術協力を強化する」と発言。環境省も「水銀汚染は国境を越える問題であり、先進国として責任ある支援を行う」との立場を示した。
一方、国際歯科連盟(FDI)は声明を通じて、「歯科医療の安全性を確保しつつ水銀フリーへの移行を進めるため、代替素材の研究とコスト低減が急務だ」と訴えた。また、発展途上国では代替材料が高価で普及が遅れている現状から、経済的・技術的支援を求める声が高まっている。
水銀汚染は現在も深刻な環境問題として各国が取り組んでおり、世界保健機関(WHO)によれば、毎年約2,000トンの水銀が大気や水環境に放出されていると推定される。特に医療・鉱業・産業廃棄物分野からの排出が多く、途上国での対策の遅れが課題とされている。
今回の合意は、各国が2030年代半ばまでに「水銀ゼロ社会」へ向けたロードマップを構築する上で重要なマイルストーンとなる。今後、各国は国内法の改正や代替素材の普及支援などを進め、実効性のある削減策を実施する必要がある。
条約事務局は「水俣病の記憶を風化させず、科学と倫理の両面から水銀に依存しない未来を築くことが私たちの責務」とコメントしている。
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