昭和初期に建てられ、国の登録有形文化財にも指定されている埼玉県秩父市の老舗食堂「パリー食堂」が、建物の耐震改修費を募るクラウドファンディングで支援総額900万円を突破した。募集開始から約2か月で目標額4,000万円の23%に達したが、締め切りまで残り15日となり、存続に向けた取り組みは正念場を迎えている。

パリー食堂は1927年(昭和2年)創業。昭和レトロな外観と内装を残し、年間約2万人が訪れる秩父の名物店として親しまれてきた。2004年には国の登録有形文化財に指定され、地域の象徴的存在となっている。
しかし、近年実施された耐震診断で「大地震が発生した場合、倒壊の恐れがある」との判定を受けた。建物には外壁のひび割れや傾きが確認され、営業を続けながらの修繕には大規模な工事が不可欠とされている。耐震補強と修繕に必要な費用は約4,000万円に上るが、市の補助金は100万円にとどまり、自己資金のみでの対応は困難な状況だ。

このため、三代目店主の川邉義友氏(82)と、四代目として店を継いだ孫の川邉晃希氏(30)は、「地域の記憶を未来につなぐ」ことを掲げ、10月16日からクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で支援を募っている。集まった資金は、文化財としての価値を維持しながら行う耐震補強工事に充てる計画だ。
支援の輪は徐々に広がっている。12月15日現在の支援総額は935万6,000円に達し、料理研究家リュウジ氏や、チャンネル登録者数190万人を超えるラーメンYouTuberのSUSURU氏が支援を表明。実際に来店し、動画を通じて店の現状を発信するなど、影響力のあるインフルエンサーが存続を後押ししている。

このほか、水溜りボンドのトミー氏が運営する「トミビデオ」や、昭和レトロをテーマに発信するクリエイター、埼玉県内のグルメ・観光系インフルエンサーなど、幅広い層から応援の声が寄せられている。SNSでは、店の歴史や建物の価値に共感するコメントが相次いでいる。
パリー食堂は近年、四代目の川邉氏が中心となり、TikTokなどのSNSを活用した情報発信にも力を入れてきた。短期間で動画の累計再生回数が1,000万回を超えるなど、若い世代にも存在が広がっている。こうした動きが、今回のクラウドファンディングにも一定の追い風となっている。
一方で、目標達成への道のりは依然として険しい。募集終了まで残された時間はわずかで、必要額にはまだ大きな開きがある。川邉氏は「あと15日という限られた時間だが、奇跡を信じて走り抜けたい」と話しており、最後まで支援を呼びかける構えだ。
パリー食堂をめぐっては、フジテレビやTBS、日本経済新聞などのメディアでも相次いで取り上げられ、昭和の面影を残す食堂の存続問題として注目を集めている。再開発が進む一方で、歴史的建築物をどう守るかという課題は、地方都市共通のテーマでもある。
祖父と孫、二世代にわたる店主が挑む「100年の食堂」を守る試みは、地域文化と経済の在り方を問いかけている。クラウドファンディングは12月30日まで実施される予定で、支援の行方が注目される。
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