【神戸地裁】宝塚クロスボウ事件 野津英滉被告に無期懲役判決 死刑回避の理由は「責任能力と発達障害の影響」

兵庫県宝塚市で2020年、クロスボウ(洋弓銃)を使用して家族4人を殺傷したとして殺人などの罪に問われた野津英滉(のづ・ひであき)被告(28)の裁判員裁判で、神戸地裁は10月31日、検察側の死刑求刑に対し、無期懲役の判決を言い渡した。

裁判長は「計画的かつ冷静な犯行で結果は重大だが、発達障害や強迫性障害が犯行に影響した」として、死刑を回避する判断を示した。

■ 家族4人を襲撃 祖母・母親・弟を殺害、伯母を重傷に

事件は2020年6月4日、兵庫県宝塚市安倉西の住宅で発生。野津被告は自宅でクロスボウを使い、祖母(当時83歳)、母親(当時50歳)、弟(当時21歳)を相次いで射殺。さらに、近くの別宅を訪ねた伯母(当時79歳)にも矢を放ち重傷を負わせた。

矢は頭部や胸部に命中しており、いずれも即死に近い状態だったとされる。野津被告は事件後に自ら通報し、現場で逮捕された。

■ 検察は「冷酷で計画的な犯行」と死刑を求刑

検察側は、被告が事件前からクロスボウを複数購入し、矢の補充や殺害対象の選定を事前に行っていたことを指摘。「家族関係の不満を理由に、極めて冷酷かつ計画的に犯行を遂げた」として死刑を求刑した。

また、事件の残虐性と社会的影響を重く見て「矯正の余地はない」と主張した。

■ 裁判所は「完全責任能力はあるが、障害の影響を無視できない」と判断

一方、弁護側は「被告には発達障害と強迫性障害があり、極度の思い込みや被害妄想的思考が犯行に影響した」として、死刑を回避すべきだと主張していた。

神戸地裁の福崎裁判長は判決で、「被告には完全な責任能力があると認められるが、障害の特性により自己統制が困難になっていた」と指摘。そのうえで「犯行の背景には孤立や家庭環境への不満など複合的要因があり、更生可能性を完全には否定できない」と述べ、無期懲役を選択した。

■ 判決理由の骨子:「更生の可能性」と「発達障害の影響」

判決では、量刑の最大の争点となった「死刑回避の理由」について、以下のように述べられた。

「発達障害に起因する強いこだわりや自己中心的思考が、事件の引き金となった。計画的ではあるが、通常の判断力に基づく冷酷な犯行とは評価しがたい。」

「犯行後に自ら通報したこと、被害者の大半が身内であることも考慮し、社会復帰までの時間を無期に限定することが妥当である。」

■ 遺族のコメントと社会的反応

判決後、遺族代理人は「命を奪われた家族の無念を考えると到底納得できない。死刑を避ける理由が理解できない」と述べた。

一方で、精神障害を持つ被告に対する量刑判断として「責任能力の線引きをどうすべきか」という司法上の課題を浮き彫りにした判決とも受け止められている。

SNSや報道各社のコメント欄では、「なぜ死刑にならないのか」「障害を理由に罪が軽くなるのはおかしい」といった批判の声が多数寄せられた。一方で、「更生可能性を見極める司法の慎重な姿勢は理解できる」といった意見もあり、世論は二分している。

■ 弁護団「極刑を回避できたことは評価」 検察は控訴を検討

弁護団は判決後、「裁判所が被告の障害特性と責任能力を慎重に検討し、死刑を回避したことは適切」とコメントした。

一方、検察側は「判決内容を精査し、控訴の可否を検討する」としている。

この事件は、クロスボウ(ボウガン)による殺傷事件として全国的な衝撃を与え、翌年には「改正銃刀法」によりクロスボウの所持が原則禁止となるなど、法改正の契機ともなった。

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