
7日朝、山形県米沢市の滑川温泉にある老舗旅館「福島屋」にクマ1頭が侵入した。旅館を経営する70代の男性と家族2人が一時2階に避難し、通報を受けた警察の救助によって安全が確保された。警察は旅館周辺を一時封鎖し、交通規制を行いながら猟友会と連携して捕獲作戦を進めている。けが人は確認されていない。
警察によると、午前8時半ごろ、旅館の従業員がフロント付近で物音を聞き、監視カメラを確認したところ体長1メートルほどのクマが館内に入り込んでいるのを発見したという。直後に経営者の男性が家族とともに2階へ避難し、警察へ通報。約20分後、警察官が現場に到着し、安全を確認した上で3人を旅館外へ誘導した。クマはその間、1階の受付周辺を徘徊し、観光パンフレット棚や装飾品を倒すなどの被害が出たが、人への接触はなかったとされる。
警察は旅館周辺に交通規制を敷き、周辺住民や観光客に対して外出を控えるよう呼びかけている。地元の猟友会も現場入りし、付近の山林に逃げ込んだ可能性を踏まえて捜索を行っている。現時点ではクマは捕獲されておらず、警察は夜間の安全確保を目的に巡回を強化する方針を示している。
山形県内では今秋以降、クマの出没が相次いでおり、県のまとめによると、2025年1月から10月末までの目撃件数は前年同期比で約2倍に増加している。特に米沢市や上山市など内陸部では、食料不足や気温の急変によって人里への出没が増加傾向にある。県自然保護課は「今年は木の実の生育が悪く、クマが人里に降りてくるケースが多発している」と分析している。
滑川温泉周辺は紅葉シーズンで観光客の多い時期にあたり、現地関係者は「観光客が宿泊していなかったのが不幸中の幸い」と話す。旅館「福島屋」は江戸時代から続く歴史ある温泉宿で、山間に位置する自然豊かな立地が特徴。旅館関係者は「まさかクマが玄関から入ってくるとは思わなかった」と驚きを隠さない様子だった。被害は館内の一部にとどまり、営業再開の見通しは警察の安全確認後に判断される見込み。
一方で、地元自治体はクマ出没の頻発を受けて警戒を強化しており、米沢市役所は防災無線で注意喚起を実施。市民に対し、「早朝や夕方の屋外活動は控える」「ごみを屋外に放置しない」「目撃時は絶対に近づかない」との呼びかけを行っている。県警も周辺住民への巡回を強化しており、周辺の小中学校には登下校時の集団行動を徹底するよう通達した。
山形県では今年に入り、住宅街や店舗、山道などでのクマ出没が相次ぎ、10月には最上地方で登山者2人が襲われて軽傷を負う事件も発生している。県警は「今回のように人里近くの温泉地での侵入は、これまでにない危険性をはらむ」として、地域全体での対策強化を呼びかけた。現場周辺では観光宿泊施設が多く、今後も出没リスクが続くとみられることから、自治体は猟友会と協力して捕獲体制の常設化を検討している。
県関係者によると、今回の事案は「県内で増加するクマ出没の象徴的なケース」とされており、住民や観光客の安全確保が最優先課題になる見通し。警察と猟友会は引き続き夜間の監視を続け、周辺地域への広報体制を強化している。県警は「人的被害が出なかったことは幸いだが、今後の再発防止策を早急に講じる必要がある」としている。
薄い雲

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